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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)5501号 判決

原告

西勇

ほか一名

被告

菊本薫

主文

一  被告は、原告西勇に対し、金五一四万二九八〇円、原告西加与に対し、金四二九万二九八〇円、及びこれらに対する平成六年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告は、原告西勇に対し金九二七万五七四九円、原告西加与に対し金八一七万五七四九円、及びこれらに対する平成六年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告が運転する軽四輪貨物自動車が西菜奈美(以下「菜奈美」という。)を轢過して死亡させた事故に関し、その両親である原告らが、被告に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成六年二月二〇日午前一一時三〇分ころ

(二) 場所 奈良県吉野郡下市町梨子堂三三七番地西良治方敷地内(以下「原告ら宅敷地内」という。)

(三) 加害車両 被告運転の軽四輪貨物自動車(奈良四〇け五四八四、以下「被告車」という。)

(四) 事故態様 被告車が原告ら宅敷地内で一歳三か月の菜奈美を轢過して死亡させたもの

2  相続

原告らは、菜奈美の両親であり、同人の権利を各二分の一の割合で相続した(甲二、三)。

3  損害のてん補

原告らは、自動車損害賠償責任保険から死亡保険金として二四八八万五四二〇円の支払いを受けた。

二  争点

1  過失・過失相殺

(被告の主張)

本件事故は、被告が灯油の配達で原告ら宅敷地内に被告車を入れ、一旦下車して菜奈美の母である原告西加与と菜奈美の祖母である西光子(以下「原告加与ら」という。)の指示で灯油を置きに行くため、被告車に戻つて低速で緩やかに発進させたところ、敷地内で遊んでいた菜奈美が被告車の死角に入つていたため本件事故が発生したものであり、その際、原告西加与らは、菜奈美の母、祖母として被告車の左前方にいた菜奈美を事故防止のため近くに引き寄せる等の措置を取るべきであつたにもかかわらず、これを怠つたために本件事故が発生したのであるから、原告らには重大な過失がある。

(原告らの主張)

本件事故は、道路上ではなく、原告ら宅敷地内で起こつたものであるから、かかる場所に自動車を乗り入れたものは道路を通行する以上に注意して運転操作を行う必要があるところ、被告は、右敷地内で一旦停止させた被告車を再発進させるに当たり、付近で遊んでいた菜奈美に気付いていたのであるから、前後左右等周囲を充分に確認すべきであつたにもかかわらず、これを怠つてすぐさま発進させたのであるから、重大な過失があり、他方、原告西加与が、被告車発進の際、菜奈美を手元に確保しておかなかつた落ち度があるにしても、その過失割合は、被告の過失の重大さに鑑み、せいぜい一割が相当である。

2  損害

第三争点に対する判断

一  争点1(過失・過失相殺)について

1  前記争いのない事実及び証拠(甲七、八の1、2、検甲一の1ないし5、乙一、二、原告西加与)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故の現場は、原告ら宅敷地内であり、その概況は別紙図面のとおりである。

(二) 被告は、被告車を運転して灯油の配達に原告ら宅敷地内に入り、図面〈1〉で図面・辺りにいる菜奈美を認めながら進行し、図面〈2〉で一旦停止して被告車から降りた。そして、原告加与らに挨拶をした後、灯油の置き場所を尋ねたら、原告加与から「ここら辺に置いといて下さい。」と答えがあり、右答えを原告ら宅の西側に置く指示があつたと思い、被告車に戻り、同所に灯油を置くため被告車をゆつくりと発進させたところ、原告西加与が大きな叫び声をあげたので被告車を停止させたら、被告車左後輪が菜奈美に乗り上げていた。

(二) 原告西加与は、被告車(バン型)が図面〈2〉に停止していたとき、菜奈美(一歳三か月でよちよち歩きができる)を図面〈ア〉辺りで遊ばせていたが、被告車を降りてきた被告から灯油の置き場所を尋ねられたので、図面〈2〉辺りで良いとの趣旨で前記のとおり答えたところ、被告が何もいわず被告車に乗り込んで被告車を発進させたため、菜奈美のことが気になつて被告車の後ろ側に回つて図面〈c〉辺りから図面〈ア〉の付近を見た。しかし、菜奈美が見当たらなかつたので、被告車の後ろのガラスを叩き、それと同時位に被告車の左前輪が浮き上がるのが分かつたので、被告車の左方向である図面〈d〉辺りで被告車の下を覗いたら、菜奈美の背中に被告車の左後輪が乗つていた。

2  以上の事実によれば、被告は、被告車を発進させるに当たり、原告ら敷地内で特に幼子がいることが分かつており、直前にごく近くに一歳三か月の菜奈美が遊んでいたのを認めていたのであるから、周囲を充分に確認した上で発進させるべきであるにもかかわらず、これを怠つて被告車を発進させた重大な過失が認められる。他方、原告加与にも、被告車が敷地内に進入していたのであるから、被告車付近にいたよちよち歩きができる菜奈美の動向に充分注意し、自己の手元に置くなどその安全を確保しておくべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠つた落ち度が認められる。そして、双方の過失内容、前記事故態様等を考慮すれば、被害者側である原告らの過失割合は一割五分が相当である。

二  争点2(損害)

1  入院雑費(主張額三万二五〇〇円) 三万二五〇〇円

菜奈美は、本件事故により頭蓋骨骨折等の傷害を受け、奈良県立医科大学附属病院に二五日間入院した後に死亡したものであり(甲四ないし六)、入院雑費として一日当たり一三〇〇円を認めるのが相当であるから、入院雑費は三万二五〇〇円となる。

2  入院付添費(主張額一一万二五〇〇円) 一一万二五〇〇円

前記した菜奈美(一歳三か月)の入院時の状態に照らせば、両親である原告ら一人の付添看護が必要であると認められ、右費用は一日当たり四五〇〇円とするのが相当であるから、付添看護費は一一万二五〇〇円となる。

3  入院慰謝料(主張額一〇〇万円) 七〇万円

前記した入院期間、菜奈美の重篤な症状等に照らし、七〇万円が相当である。

4  逸失利益(主張額一七五九万一九一八円) 一七五九万一九一八円

菜奈美は、本件事故当時、一歳三か月の女子であつたが、本件事故により一八歳から就労可能年数である六七歳まで少なくとも女子の賃金センサスによる平均年収二一〇万四八〇〇円(平成六年度の産業計・企業規模計・女子労働者の学歴計一八歳ないし一九歳)程度の収入程度を失つたことが認められ、生活費控除率を五〇パーセントとしてホフマソ式計算法で中間利息を控除して逸失利益を算定すると、以下のとおり一七五九万一九一八円となる。

2,104,800×(1-0.5)×16.716=17,591,918

5  死亡慰謝料(主張額・菜奈美分七〇〇万円、原告らの固有分各七〇〇万円) 二〇〇〇万円

前記した事故態様、菜奈美の年齢等の諸事情を勘案すると、原告ら固有分の慰謝料を含め二〇〇〇万円が相当である。

6  原告西勇の葬儀費(主張額一〇〇万円) 一〇〇万円

本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては一〇〇万円を認めるのが相当である。

7  以上の損害合計は、原告西勇分が二〇二一万八四五九円、原告西加与分が一九二一万八四五九円となるが、前記した一割五分の過失相殺し、既払金二四八八万五四二〇円(各一二四四万二七一〇円)を控除すると、原告西勇の損害は四七四万二九八〇円、原告西加与の損害は三八九万二九八〇円となる。

8  弁護士費用(主張額一六〇万円) 八〇万円

本件事案の内容、認容額等一切の事情を考慮すると、八〇万円(原告ら各四〇万円)が相当である。

三  以上によれば、原告西勇の請求は金五一四万二九八〇円、原告西加与の請求は金四二九万二九八〇円、及びこれらに対する本件事故日である平成六年二月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木信俊)

別紙図面

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